過激純愛 part3

118 :ドキュソ兄@94 ◆DQN/lN.8uc :03/02/20 22:36 ID:???

【夏の最後の二人旅編 〜寄り道/8.29日記】

 内風呂に入っていた。
 離れの料金が高めの部屋といえど、親父の田舎の風呂ほどには立派でもな
く、俺達の家の風呂とあまり変わりはなかった。不満を漏らすなら、少しだ
け明かりが暗かった。
 少年時代にそうしていたように、俺は妹の髪を洗ってあげていた。さっき
までの恋人気分が嘘のように思える、昔の少年少女時代のひとコマだった。
「こうしてると、静岡の風呂を思い出すよな」
「お風呂にゲジゲジがいたりして、恐かったです」
「庭いじりしてたら、ゲジゲジぐらい普通にいるだろ?」
「今は全然平気です。あの頃は、お父さんが庭をいじってました」
「ああ、そう言われりゃそうだったな・・」
 本当に他愛もない話だった。
 昔と変わらぬ手順で、湯船からすくった湯を妹の頭にかけ、シャンプーの
泡を洗い流す。妹も昔と変わらず、シャンプーが目に入らないように手で顔
を覆って隠していた。
「ガキんちょ時代は、今と違う楽しさがあったなぁ」
「お兄ちゃんは、いつも遊びに出かけてました」
「サッカーか、喧嘩か、万引きか。それしかしてなかったけどな」
「ワルですね」
「まあね」
 妹も俺も、くすくすと笑った。





今度は、俺が妹にシャンプーしてもらっていた。
 ふと、少女時代の妹が家事やらにいそしむ姿を思い起こした。
「お前は、自分の事やる時間なんか無かったよな・・」
 考えてみれば、妹は女の子らしい事とは縁遠い少女時代を送っていた。
「でも、日記とかはちゃんと毎日書いてました」
 ランドセルを机に置くとすぐに夕食の材料を買いに出かけ、戻って来たら
すぐさまトントンと包丁を使い出し、親父と俺に食事をさせたら一人で残り
物を食べ、料理の後片づけをしながら風呂の支度をし、俺と一緒に風呂に入
った後、夜中近くになってようやく自分の部屋に戻る事が出来た。
 一方の俺は、妹が作った夕飯の味にけちをつけ、後片づけを手伝う事なく
自分の部屋に戻り、宿題もやらずに漫画を読んだりゲームをやったり、風呂
の時間まで遊び呆けていた。駄目な兄貴の典型だった。
「本当はさ、ピアノとか習いたかったんじゃないのか?」
「わたしはあまり器用じゃないから、ピアノなんて・・」
「でもさ、毎日遊んでばっかりだった俺を憎たらしく思わなかったか?」
「そんな事、全然思わなかったです」
「真面目だもんな、お前は・・」
「そんな事ないです。おつかいの帰りに買い食いとかしてました。こっそり」
「そりゃ、ワルだな・・」
「へへ。ごめんなさい」
妹は、そう笑いながら謝った。
 背後で、妹が湯船から湯をすくう音がした。
「流しますね」
「うん」
 妹がさっきそうしたように、俺も両手で目を覆ってみた。ざざあっという
音、髪をわさわさと揉むように洗う妹の手の感触・・昔に戻った気がした。





妹を背中から抱くようにして、狭い湯船に浸かった。
 妹が何かを言ったが、湯船から勢いよく溢れる湯の音に声はかき消された。
「今、何か言った?」
「あ、お湯がもったいないって言いました」
「あはは。貧乏性だよな、お前は」
「おばさん臭いですか・・?」
「ううん、そんな事ないよ」
 妹は、後ろから抱えている俺の腕をなぞりながら手を探し、片方の手を握
って、もう片方の俺の手を自分の頬に付けた。多分、甘えているのだ。
「あの・・お兄ちゃんて、わたしのどこが好きですか?」
「え、んー、そうだな・・」
「あ、答えたくなかったらいいです。でも、ちょっと知りたいです」
「うーん。やっぱり、可愛い所かな」
「え、わたし可愛くないですよ・・」
「そんな事ないよ。仕草とか、しおらしい所があるし、女の子らしいよ」
「そうかな・・うれしいです」
「表情とかも好きだよ。あと、うなじが綺麗だと思う」
「わあ、そんなにほめられると、何だか照れちゃいます・・」
普通の恋人同士と同じような会話だった。普段はあまり俺の事を詮索しない
妹だが、こういう所は普通に女の子しているんだなと思った。
 好きなタイプとしては、まるで逆方向に位置する妹なのに、どうしてここ
まで妹を好きになったのかは分からない。でも、こういうささやかな幸せの
心地良さいうのは、妹とよりを戻すまで気付かなかった。宝くじに当たるよ
うな究極のラッキーより、このささやかな幸せの方を選びたい。その時、つ
くづくそう思った。





何も言わなくても、浴衣を羽織らせてくれる。
「さんきゅ」と礼を言うだけで、うれしそうな顔をしてくれる妹。
着せる前の浴衣も、いつ畳んだのかしっかりと畳んであった。失礼な事だけ
ど、つい前に付き合っていた彼女と比べてしまう。
(あいつだったら、まずあり得ない・・)と。
「あとな・・・」
「え、はい?」
「あと、やっぱりお前が妹だから好きだってのもあるよ」
「妹だからですか?」
「うまく言えないけど、やっぱり兄貴としては妹は可愛いもんなんだよ」
「じゃあ、妹の分を抜かしたらどうですか?」
「うーん・・そうだなぁ。妹として100、女の子としても100。好きな
気持ちは同じぐらいだよ」
「わあ、良かった。前は、全然好みじゃないって言われました」
「今は大好きだよ」
「あと、前は“好きとかもあんまり言わないぞ”って言われました」
「う・・確かに言った。気になってた?」
「あ、でもちょっとです。今日もたくさん“好き”って言ってくれました」
 下を向いてもじもじしながらしゃべる妹。きっと、抱き付きたいのか、キ
スをしてもらいたいのか、もしくはそのどっちもか・・だ。
「抱き付いていいよ」と言うと、無言のままもぞもぞと身を寄せて、恥ずか
しそうに腰に腕を回してきた。妹のこんな所が可愛くて仕方がない。
「大好きだよ・・」
「・・はい。わたしも大好きです」
 二人はキスをして、兄妹から恋人へ戻った。





俺達は、夜中の三時近くまで語り合っていた。
 時折、涼しい風が部屋に吹き込んできたけれど、夏の終わりとはいえ暑か
った。さすがに暑くて、腕枕はしていなかった。
「あっちぃなー」
「早く寒くなればいいです・・。お兄ちゃんにもっとくっつきたいです」
本当は抱き付きたいのだけれど、暑さで鬱陶しがられたくないから遠慮して
いたのだと思う。
「まだ暑いもんな。冷房、ちょっとつけよっか。そしたらくっついていいよ」
「あ、いいんですか。じゃあ、つけてきます」
 腕枕の代わりに繋いでいた手を離し、妹がごそごそと起き上がって冷房の
スイッチを入れに行った。
「麦茶、まだ少しは冷たいと思います。飲みますか?」
立ち上がったついでに、そう聞く妹。
「うん。おねしょが心配だけど、ちょっと飲む」
「うふふ。お兄ちゃんがおねしょなんて、かわいいです」
水筒のふたをくるくると回しながら、妹が笑いながら言った。
 こぽこぽと麦茶を注ぐ音に目を向けると、妹は窓辺の荷物の前でお行儀良
く正座をして、麦茶を水筒のカップに注いでいた。なぜだか少し微笑んでい
る。その顔が、とても優しさに満ちて見えた。
(結婚したいな)と、思った。
 もちろん、結婚なんて出来はしない。形なんてどうでもいい。○○がこう
して傍にいてくれて、さっきのように優しい顔で俺のために何かをしてくれ
る。何年も何十年も変わらずに、俺にだけそうしてくれる。それがいい。
「はい、麦茶です」
 もしかしたら普段目にしていないだけで、さっきみたいな優しい顔でアイ
ロンをかけたり、シャツを畳んだりしてくれているのだろうか・・。
 そんな事を思いながら、まだほんのりと冷たい麦茶に口をつけた。





翌朝。仲居さんが挨拶に来る前に、俺は妹に起こされた。
「おはよ・・」
妹は、俺の布団の横にちょこんと正座をしていた。
「おはようございます。お茶、淹れますね」
「さんきゅ・・」
 昨夜は麦茶を飲んだ後に、部屋が程良く涼しくなった頃に二人とも寝た。
腕枕をして抱き合い、たまにキスをしたり、愛してるとささやき合ったりし
た。夜が明けた今、それらは夢の中の出来事だったかのように感じる。
「はい、タバコです」
妹は、朝からまめまめしく俺の世話をしてくれる。昨日の出来事など忘れた
のだろうか。あまりロマンチックな朝の雰囲気ではなかった。
「ふー。ねみー・・」
 タバコに火をつけて、二、三服ほど吸う。
 妹は、急須から少しずつ茶を注ぎ、湯飲みをくるくる回し、また少し茶を
注ぐ。俺のために、お茶を冷ましながら淹れてくれているらしい。
 俺はその間にトイレに行って、歯を磨いて顔を洗ってきた。
「よく晴れてます」
 洗面所から戻ってくると、妹は布団を畳みながらそう声を掛けてきた。
「うん。何かこのまま帰るのもったいねーな」
そう答えて、妹が淹れてくれたお茶を飲む。静岡の割には別に普通のお茶と
変わらぬ風味だったが、濃さも熱さもちょうど俺好みだった。
「お兄ちゃんの行きたい所があったら、わたしも行きたいです」
 布団を畳み終えた妹が、隣に座った。隣というよりは、斜め後ろだった。
とんとんとすぐ脇の畳を指で叩くと、恥ずかしそうに隣に正座をする。が、
腕に擦り寄ったりベタベタしたりはしない。
「ちょっと寄り道しながら帰ろうか。鎌倉とか江ノ島とか」
 甘えてきてくれないので、俺から妹の膝に頭を乗せてごろ寝をした。
「わあ、じゃあ鎌倉に行ってみたいです」
「そっか、じゃあのんびり寄り道しながら帰ろ」
「あ、はい」





朝食を食べた後、二人で書いたお礼の手紙を心付けに添え、宿を後にした。
ほんの一晩だけしか泊まらなかったが、思い出深い旅の夜を過ごせた。
「さっき鎌倉に行くってフロントの人に言ったらさ、この辺に源頼朝が負け
戦して逃げ込んだ洞窟だか何だかがあるって教えてくれたよ」
「わあ、偶然ですね。鎌倉と湯河原は源氏繋がりなんですね」
「ちょっとためになっちゃったな」
「あ、でもうちは平氏です」
「え、そうなの? 初耳」
「○○という名字は、平○○の家の流れなんだそうです」
「へぇー。よく知ってるんだな」
「昔、夏休みの宿題で調べた事があるんです」
「へぇー、そうなんだ」
 もしかしたら、それは家系調べではなく母親探しをしていたのかも知れない。
でも、あえて何も言わなかった。
 あまり旅慣れていない俺達は、湯河原の名所を見る事もなく、また名物のお
菓子を食べる事もなく湯河原駅に向かった。だが、手をつないで、妹の歩調に
合わせてのんびりと散歩気分で歩いているだけでも楽しかった。
「わあ、川が綺麗です」
「よくさぁ、映画とかで川遊びとかしてんじゃん。あれ、楽しそうだよな」
「四万十川とか、綺麗な川で遊んでみたいです」
「し、しまん・・どこ、それ・・?」
「わかりません」
「あはは。自分で言っといて、きっぱり言うなよ」
「よん、まん、じゅう、の川って書くんです」
「うーん・・あんまりイメージ湧かないや」
「えっと・・・とにかく綺麗な川だそうです」
 景色を眺めながら、そんな他愛もない話ばっかりをしていた。





各駅停車の電車で居眠りしながら、寄り道する鎌倉を目指した。
 すやすやと眠る妹。
(こいつは、どんな夢を見たりするんだろう・・)
きっと俺と同じで、悲しい夢を見たりして泣いたり、楽しい夢を見て笑った
りしている事だろう。でも、あまりそんな話をした記憶はない。
 最近になって、ようやく妹の事が色々と分かりかけてきたものの、まだま
だ知らない事だらけだ。頁をめくるほどに楽しくなってゆく小説のように、
次第に本当の妹の姿が浮き彫りになってゆくのが楽しい。
(もっといろんな事を知りたいな)
そんな事を考えているうちに、妹が目を覚ましてくれるのが待ち遠しく思え
てきた。会話を重ねる毎に新しい妹に出会えて、もっと好きになっていく。
 同じ屋根の下に十数年も一緒に住んできたのに、妹がこんなにも謎に包ま
れた存在だったとは不思議なものだ。兄妹と恋人の差というのは、本当に大
きいのだと実感した。恋をしなければ、一緒に暮らしていながらも今の妹と
はめぐり逢えなかった。今の妹は、まるで並行宇宙に存在していた別の妹と
入れ替わったかのように、まったく別人の顔を見せる事もあれば、十数年も
見続けてきた日常の妹の顔を見せる。
(こいつの目から見た俺には、何か違いがあるんだろうか)
 いつもの兄の顔。恋人としての俺の顔。まったく見た事のない新しい顔。
いろんな顔の俺をこれからもたくさん見て、もっと俺を知ってもらえたらう
れしい。もっと好きになったもらえたらうれしい。
 いずれにしても良き兄であり、良き親友であり、良き恋人であり続けたい。
父親から受けて育つべきだった分の愛情も、母親から受けるべきだった愛情
も、これからは全部俺が与えてあげたい。妹の全てと言える存在になれるよ
うに、良き人間でありたい。
 過ぎゆくのどかな田舎の風景を眺めながら、
(また妹のおかげで一皮剥けたかな)と自画自賛して、俺は一人で笑った。





気付けばいつの間にか妹が目を覚まし、俺が眠っていた。
「お兄ちゃん、もうすぐ横浜に着きます」
そう言って、妹が俺を揺り起こした。
「ん・・・。ああ、眠った眠った」
 俺は両腕を伸ばして、大きなあくびと伸びをした。
「わたしもたくさん寝ちゃいました」
「起きてたんなら、起こしてくれればよかったのに」
「あ、ごめんなさい」
「退屈だったから寝ちゃったよ」
「あ、ごめんなさい・・」
妹は同じ台詞を繰り返した。本当に申し訳なさそうな顔をしている辺りに、
妹の人の良さが現れている。
「お前って、寝てる時も口が“むっ”てなってるのな」
「あ、あの顔でしたか。恥ずかしいです・・」
 妹が何かに集中している時に見せる、口をむっと一文字に結んだ顔。たま
にリビングで家計簿をつけている時なんかに見かけて、ちょこっとからかっ
たりすると、妹はいつも恥ずかしそうにうつむいて笑う。
「どんな夢を見たりするのかなあって、ずっとお前の寝顔眺めてたよ」
「んー、どんな夢だったか忘れてしまいました。でも、さっきも見てました」
「俺は・・あ、俺も忘れちゃったよ。何か見てたんだけどな」
「お兄ちゃんは、時々しかめっ面をして眠ってました」
「おお、じゃあきっと真面目に勉強してたんだな。感心、感心」
「あ、でも忘れちゃってたら意味ないですよ」
「・・ん。そうだな・・」
 くすくすと妹が笑った。





横浜に着く直前になって、鎌倉へ行くには途中の藤沢駅で降りる事に気付
いた。可愛らしい車両とレトロな雰囲気で有名な、あの江ノ電に乗れると知
って妹はうれしそうだった。
「あ、江ノ島って鎌倉の途中だったんですね」
「そうだよ。鎌倉に行く前に、途中で降りてみるか?」
「わあ、行ってみたいです」
「でも、もうくらげが出てるから泳げないぞ」
「あ・・わたし、どのみち泳げません」
「よし、来年は特訓だな」
「え・・泳げるようになるかなあ」
「いや、冗談だから」
「あ、そっか・・」
「・・・・・」
 そう言えば、親父の田舎に行った時も、浜名湖で妹一人だけが砂浜で正座
をして座っていた。
「浜名湖で○○を海に引っぱり出して、海の中でエッチな事したなあ」
「あ、わたしも覚えてます」
「よし、やっぱり来年は特訓だ」
「えー。・・あ、またエッチな事するんですね」
「き、キミは超能力者か!?・・正解!」
「やっぱりそうだったんですね」
 そんなくだらない話を続けながら藤沢駅で降り、路線内での乗り降り自由
な切符を買ってホームへと歩いていった。江ノ電に乗るのは高校一年の夏に、
当時の彼女と鵠沼へ行って以来だった。あの時の懐かしい空気が甦った。





江ノ電の藤沢駅は、割と近代的でレトロな感じはしない。だが、妹は電車
に乗れる事が待ち遠しいらしく、
「わあ、早く電車来ないかなあ」などと言いながら、目をきらきらさせてい
た。そして、湯河原の駅でもやっていたように、妹は少し上の方を眺めなが
ら、とことこと小さく回った。
「ふっ、子供だな」と、冗談っぽくからかう俺。
「あ・・」
「どこ見てくるくる回ってんだよ」
「えっと、屋根です」
「屋根に何かあったか?」
「んーと、ヨーロッパの駅みたいだなあと思いました」
「ヨーロッパ!すんげえトリップしたな、おい」
「世界の車窓(TV)とかで、よく観ます」
「ああ、あれけっこう観ちゃうよな」
「わたし、あの番組大好きです」
「へー」
また、妹の新しい一面を知った。
 ひと昔は、こういう真面目な返答しかしない妹につまらなさを感じた事も
あったが、最近は妹としゃべる事が楽しい。真面目だけど、妹らしい物事の
視点を垣間見られる事が、同じ世界観を共有出来たようでうれしい。そして、
俺も妹のように賢くなれた気がして、妙に得をした気分になるのだ。
「お前ってさ、黙ってるから分からないけど、賢いよな」
「え、何でですか?」
「勉強もそうだけど、物事の見方とかいろいろタメになるよ」
「わあ、お兄ちゃんの役に立ってるんですか。うれしいです」
 俺は、うれしそうに笑う妹の頭を撫でてあげた。





江ノ電独特のおもちゃのような車両がホームに入ってきた。
「わあ、可愛い電車だなあ」と、妹が言う。
「あれ? 前に見た時は、もっとレトロな感じだったのになあ・・」と俺。
「きっと、新しくなっちゃったんですよ」
「そうかもな・・。ちょっとがっかり」
「残念でしたね。わたしも見たかったです」
俺につられて、妹もちょっと残念そうな顔をした。
 妹の手をひいて電車に乗ると、妹はホームでもしていたように車両内を
仰ぐようにくるくると見渡した。くりくりと動く目がきらきらしていた。
「けっこう揺れるから、ちゃんと掴まってろよ」
「あ、はい」
「外を見てると、狭ーい所を走ったりしてて楽しいよ」
「へえー、そうなんですか」
 妹を背中側から抱くようにしてドアの窓の前に立ち、江ノ電の車窓からの
景色を二人で眺めながら雑談をしていると、ものの十五分ほどで江ノ島に着
いてしまった。
 江ノ島駅は、藤沢駅よりもレトロな情緒に溢れ、いかにも女の子が喜びそ
うな可愛らしい駅だ。
「わあ、可愛い駅だなあ」と、妹は案の定喜んだ。
 夏も終わりなので、今夏最後の海を眺めようとしているのか、俺達以外に
もかなりの人が下車した。
「江ノ島まではけっこう歩くけど、海はすぐ近くだよ」
「楽しみです。わたし、今年初めてですよ、海」
「何言ってんだよ、一緒にお台場に行ったじゃん」
「あ、そうか。あそこも海ですね」





手をつないで、のんびりと海までの道を歩く。
 駅前の道は、ちょっとレトロな雰囲気のお店もあれば、ハンバーガーショ
ップなんかもあるし、当然サーフショップなども多い。
「わあ、海がもう見えます。あっちが江ノ島ですか?」
「そうだよ。長い階段があって、おみやげ店とかがずっと上まであるんだよ」
 浜辺から延々と続く道の先に、小さな山のような江ノ島が見える。
「お兄ちゃんは、上まで行った事あるんですか?」
「だるいから、上までは行った事ないよ。行きたいか?」
「・・わたしも階段は苦手です」
「じゃあ、のんびり海でも眺めてよっか」
「あ、はい」
 親父の田舎の事を思い出したのか、妹が急に思い出話を始めた。
「階段の話で思い出しました。静岡のお墓参りの時の事」
「墓?静岡の怪談話か?」←ボケ
「お団子屋さんの長い階段です。お墓参りの時に必ず行ってた」←スルー
「ああ、あの団子屋か。あそこの階段も長いよな」
「でも、上まで登った時は涼しくて気持ちいいんですよね」
「竹林の中に店があるんだよな。親父と三人で団子食ったな」
 もう何年も行っていないし、子供の頃の事なので店の名前も場所も覚えて
いないが、おいしい団子屋が静岡にある。祖父や親父母の墓の近くにあり、
墓参りの後には必ずそこで団子を食べていた。
「サンダルで足の皮が剥けちゃって、お兄ちゃんがおんぶしてくれました」
「そんな事あったっけ?」
「はい。お兄ちゃん、優しいなあって思いました」
「へえー、もう忘れちゃったよ」
そう言うと、妹は少し残念そうな顔をした。





海沿いの道路から浜辺まで降りる階段を下りた。
「じゃあ、アイスの事は覚えてますか?」
「アイス?」
「わたしが食べるの遅くて、アイスがすごく溶けてたんです」
「うんうん、それで?」
「わたしは棒のアイスだったけど、お兄ちゃんはカップのアイスだったから、
“落っことすぞ”って食べ終わったカップをくれたんです」
「ああ、あったな、そんな事」
「その時も、お兄ちゃん優しいなあって思いました」
「そっかー」
 確かにそんな事があったが、実際の所は、食べ終わったアイスのカップを
捨てる場所がなかったから妹に押しつけただけだった。でも妹は、そんな所
で俺の兄貴らしい優しさというものを実感していたらしい。
「あの頃、夏休みのプールでよくいじめられていたけど、お兄ちゃんが優し
くしてくれてうれしかったんです」
そう言われてしまい、本当の事はもう言えなくなってしまった。
「でも俺の中では、あの頃はお前に優しくなかったと思ってたんだけどな」
「そんな事ないです」
「そっか?」
「お父さんはあんなだし、お母さんはいなくなっちゃったし、わたしに優し
いのはお兄ちゃんだけでした」
「うーん・・俺もいじめてた気がするんだけどな」
「えー、今さらそんなあ。わたしの思い出が・・」と、泣く真似をする妹。
「でも、これからはずっと優しくするよ」
「これから“は”じゃなくて、これから“も”です」
「けっこう頑固だな、あんた」
「はい。わたしは認めません。えへへ」





俺はスニーカーを脱いで裸足になった。それを見て、妹も裸足になる。
「砂、ちょっと熱いよ」
「あ、本当です。でも、平気です」
 脱いだ靴と靴下を両手に持って、砂の上をひょこひょこと歩く妹の姿が、
子供の頃に海で一緒に遊んだ姿とシンクロする。
(ああ、やっぱり○○は○○なんだな・・)
いろいろと違う表情を見せたりするけど、やっぱりずっと一緒に育ってきた
妹なんだと、ごく当たり前の事を何故だか改めて実感した。そして同時に、
何故か心地良い安心感をおぼえもした。気まぐれな俺は、妹でいてもらいた
い時と、恋人でいてもらいたい時と、思いが時々入れ替わる事がある。今は、
兄妹でじゃれ合いたい気分だった。懐かしい少年少女時代に戻りたかった。
「おい」
“○○”と名前で呼ばず、やんちゃ坊主時代の兄に戻って“おい”と呼んだ。
「あ、はい」
「足だけ海に入ろうぜ」
「はい」
 妹の靴と靴下をさっと奪い、ぽいっと砂浜に放り投げ、妹のパンツの裾を
まくってあげる。そして自分のパンツの裾もまくると、波打ち際まで妹の手
を引っ張って走った。涼しい潮風を身体全体で感じた。
「うおー、冷てー!」
「うわあ、冷たーい!」
 ざぶんと足にかかる波。生まれては消える波の泡の弾ける音。退いてゆく
波にさらわれてゆく足の下の砂の感触。
「海、来てよかったな! 来年は、ちゃんと記念写真とか撮ろうな」
「あ、はい! たくさん撮りたいです」
 親父に見つかって詮索されないためにも、温泉旅行の写真は撮っていない。
自由になれるであろう来年が、もう待ち遠しく感じられた。





潮風が気持ち良かった。
 夏の終わりを惜しむかのように、サーフィンやウインドサーフィンを楽し
む人達がいた。沖合には大きな船が霞んで見える。海鳥も飛んでいた。俺達
はそれらの眺めを楽しみながら、濡れたパンツの裾と足を乾かすために、砂
浜に座ってしばらく雑談をしていた。今は、兄妹でも恋人でもなく、親友と
いった雰囲気だった。本当にくだらない雑談をして、二人で笑っていた。
「腹減ったね」
「あ、はい。もうお昼はだいぶ過ぎちゃいましたね」
 そう答えながら、妹は砂をひと掴みすると、砂時計のようにさらさらと砂
を落とした。潮風に流れるその砂が、終わりゆく夏の儚さの象徴かのように
見えた。線の細い華奢な妹の雰囲気に、その光景はよく似合っていた。
「鎌倉に行って、ご飯食べようか」
「あ、はい。お腹がぺこぺこです」
 俺はさっさっと足についた砂を落として靴下と靴を履いたが、妹はもたも
たとまだ砂を払っていた。立ち上がる前に、妹のもう片方の足の砂を落とし
てあげた。
「ありがとうございます。やっぱり優しいです」
「お、本当だな。優しいじゃん、俺って」
「だから言ったじゃないですか。お兄ちゃんは、本当は優しい人なんです」
「うーん。十九になって初めて己を知ったよ、俺は」
そんなボケをかましている間、妹が俺のお尻の砂を払ってくれた。 
「あ、あの・・」
「ん?」
「優しさついでに、キスしてもらいたいです・・」
「うん」
 俺達は、兄妹から親友、親友からまた恋人に戻って、海で過ごす時間の最
後をちょっと長いキスで締めくくった。





また江ノ電に乗ったが、何故かあまり会話がなかった。
 久しぶりに二人で遊んだ海を名残惜しむかのように、俺達は電車の中から
ずっと窓の外の水平線を眺めていた。妹は、海が見えなくなると、時々俺に
きゅっとしがみつくように抱き付いてきた。俺は甘えん坊の子供をあやすよ
うに、そんな妹の頭を撫でてあげていた。クールを気取っていたが、高鳴る
鼓動は、胸に耳を当てる妹に丸聞こえだったと思う。
(大好きだよ・・)
妹の耳元でささやくと、抱き付く腕にきゅっと力を入れて妹が抱き付いてき
た。返事の代わりなのか、妹は一瞬だけ俺の首に唇を押し付けた。妹にして
は大胆な事をしたので、意表をつかれて俺はどぎまぎしてしまった。
 しかし人目が気になり出したのか、しばらくすると少しだけ身体を離した。
 そういうするうちに、三十分ほどで電車が鎌倉駅に着いた。
「わあ、鎌倉駅もやっぱり可愛いですね」
電車の中で俺の胸を焦がした色っぽさはどこへ消えたのか、一転してまた子
供っぽい妹に戻った。女の子というのは難しい。
「ちょ・・ちょっと・・・」
いつもとは逆に俺の手をひいて歩く妹を俺は制止した。
「はい?」
きょとんとする妹の耳元で、
(ごめん。ちょっと勃っちゃったから・・)と、苦笑いしながらささやいた。
「お兄ちゃん、エッチです・・」
「ごめん・・雰囲気が良かったから、つい」
 ポケットに手を入れて、おちんちんの位置を直す自分が恰好悪かった。
 しかし、そんな俺を笑う事なく、妹は周囲の人が先に改札へ抜けるのを見
計らってキスをしてくれた。
「今はキスで我慢してくださいね」と言って、にこっと笑った。
「・・うん、がんばってみる」と答えるのがやっとな俺だった。




てか、また途中までになってしまいました・・。
鎌倉は飯食って散歩しただけなんで、すぐ終わります。
問題は近所の公園なんです。起承転結の“結”なんで、お時間を下さいませ。


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